CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

各専門家からみた現在の状況とこれからの持続可能な社会について、
CCI FUTURE IMPACT Forum座長の大澤真幸氏と
あらゆる分野の専門家からなるメンバーの対談をお届けしてまいります。

今回は、Part1 Part2 Part3に引き続き、
江間 有沙氏と大澤 真幸氏のスペシャル対談のPart4をお届けします。



【第7回】コロナ禍における人工知能と社会の関係からみた現状と持続可能な社会とは
江間 有沙氏 × 大澤 真幸氏

Part4(全4回)
AIとどう付き合うのか ―AIへの期待と不安-


-江間氏:
AIが人間のような知性を持つAGI(汎用人工知能)を作っていこうという取組を進める動きもあります。そのようなものが仮にできたとした場合、人間の価値の転換になるのか、ある意味、人が機械とつき合う新しい形態が主流になって行くのか。
それを嫌だと思う人が多ければ、やはりストップがかかると思います。そういう意味では、現在は、大きなトランジションの中に入るという気がします。

だからこそヨーロッパなどの価値の伝道者の人たちは今こそ人権やヒューマニティを大事にしたいと思っているわけです。以前オランダの方と話をしていたら「ヨーロッパは今転換期にいる。巨大な死んだ博物館になるか、第2の啓蒙期に入るのか」と言うのです。これまでの欧州的な価値観が全て死んでしまって、陳列されているだけの博物館となるのか、はたまた再びエンライトメントがやって来て、そこが新しいルネッサンスがはじまるのかという瀬戸際であるという意気込みを今ヨーロッパは持っているのですよね。

日本にそこまでの意気込みがあるのかというと、どうなのでしょうか?


-大澤氏:
日本はずっとフォロワーでいればよいと思っているのですね。先程の決定するのは最終的に人間化されていなければならない、というところも日本は弱いですね。普段のことでも誰が決めたかわからないけれど従っている、というようなことがあります。元々誰から聞いたのかはわからないけれど、空気がそうだと思えば、それに従うわけです。これからは空気よりもAIの方がましだという判断もあるかもしれません。


-江間氏:
AIに関する会議で話題になったのですが、これからは様々な仕事の現場にAIが入ってくる可能性があります。
それぞれの仕事にはベテランや専門職がいます。例えば医者や土木技術の専門家を育てるという時、AIがものによってはお手本を見せて人材を育てるというジェネレーションに確実に変わっていくと思います。警察などに関しても、AIがどの道路のどの辺りを検問するとよい、というように過去のデータに基づいて指示を出したりするわけです。
ベテランは今までの経験と勘で、この辺りはこうしたほうが良いと判断し、AIの答えと突き合わせてその経験と勘の上で納得し解釈するのでしょうが、新人はこれまでのように「ベテランがそうやる」「ベテランがそう言う」という形で学んできたのと同じように、「AIがそう言うからそうなのだ」いう形で学んでいく可能性があります。それを自分でどう解釈するのかいう作業も変わってくるのではないかと思います。

一方でAIがちゃんと説明してくる可能性もあります。
例えば「統計的にこういう結果だし、季節的な要因がこのように入っている」という具合に。
ベテランの人の一言や勘や背中を見て学べというのと、AIのデータに基づく学び方のどちらが良い教師なのかというのは、その時々によってどちらにも可能性があるといえるのではないかと思います。

一方で、AIは全知全能でなんでもわかる、汎用人工知能のようなものはまだありません。
実際にAIを作っている人は「そんなAIがあるのだったら持ってきてくれ。作れるものなら作りたいぐらいだよ」と言うくらいで、まだ殆ど思うように動かないものが多いのです。それはデータが不足していたり、そのデータを収集する私たちの社会や世界がそもそも歪んでいたりするためです。

機械は社会から学んでいるため、社会の是正もしていかなければならないので、人と機械がうまく協調するためには時間が必要でしょう。それまでに機械と協調できる人材とか、AIから学びそれを十分に解釈できる教育を受けた世代が育っていくと、新たなフェーズ、新たな地平線が見えてくるのではないかと考えています。
ないでしょうか。


-大澤氏:
今、SDGsが重要なことは間違いないのですが、その流れとの関係で考えると、益々データというものの重要性が大きくなります。特にAIはビッグデータを処理できるアルゴリズムがより重要になる可能性が高いと思うのです。

SDGsというのは、いわばものすごく沢山ある連立方程式を解くような感じだと思うのです。地球上の様々なものを最適化しなくてはならない。何か一つだけ最適化するのであれば何とかできても、SDGsの課題は何十個もの変数があって、解けない連立方程式を解くみたいな事になっていると思うのです。

これを解決していこうとすると、最終的には益々AIを使った情報処理が重要になってくるわけです。そうすると、私たちはどのようにデータと付き合うのか、ということが大きな課題となります。これはSDGs自体の課題と車の両輪になるような感じがします。

AIが出した結論として最適化するためにはある部分を相当犠牲にしなくてはならないとなったら、それは許されるのかどうか、どう考えたらよいのか。こうして考えてくると江間さんのお仕事はこれから益々重要になると思います。


-江間氏:
SDGs は巨大な連立方程式と伺って、なるほどと思いました。その方程式に何を入れるか、ある意味アルゴリズムやデータによってAIの精度や方向性を変えるところがあるのです。

ドイツやフランスの人達と話していて面白いと思ったのは、彼らが目指している超環境配慮型の社会は下手をすると、意外なことに超監視国家になると思ったのです。エネルギー収支を見るために全部データ化され、自然環境保護の目的でCO2の管理のために、人の動きもデータ化するようになり、結果的には超監視国家と自然を守るということは、ヨーロッパでは受け入れられるの?みたいに思ったりもします。
環境重視する方と、ディグニティを大事にするというところで、一つ方程式に入れるものを間違えると、意外な答えが出てきたりするのではないかという気がします。何を変数に入れるのかを相当考えていかないと、おっしゃる通り、所詮機械は機械で、最適化と効率化しかしないので、やはり最後は総合的な観点からの人間的な判断が求められるのではないかと思いますね。


-大澤氏:
そうですね。私も最後はやはり人間と思うのです。
最後にこのフォーラムのこれからについて伺いたいと思います。
フォーラムを基盤として、今後もいろいろ展開していきたいと考えているのですが、「こんなことをしたらどうか」などのご意見があれば伺いたいのですが。


-江間氏:
そうですね。様々な分野の方々がいろいろな関心を持っておられ、そのお話を伺い、お話しできるのは私自身にとって大変刺激になっています。出来ればその成果を何らかの形でアウトプットしていけたら良いと思っています。

大学や研究会などの組織では、政策提言を行うことが多いのですが、このフォーラムはそういうアウトプットではないのだろうと思います。

大澤先生が座長をなさっているところに特徴があるとも思うのです。政策提言として「こうすべきだ」「こうした方が良い」と、スパッと解決策や指針を出すのではなく、問題を提起する形のアウトプットはどうでしょうか。
多くの人から解決の方向を求められている質の良い問題をだすことです。

SDGsもある意味そういう方向だと思います。皆まだ気づいていないかもしれない、あるいは言語化できていないけれど、実は非常に大事な問題があるということを、言葉は短いけれどよく考えられ練られた内容としてコンパクトにインパクトを持って出すことだと思います。

せっかくこれだけ様々な分野の人がいるのですから、それぞれの視点からコンパクトでインパクトのある概念や言葉を提示できればいろいろな人が参加できるフレームになるのではないでしょうか。

現在、SDGsという言葉には多くの人に浸透したと思います。16項目の全部は言えないかもしれないけれど、問題に取り組むという傘の中にみんな一緒に入ることができる言葉として展開しています。
Society 5.0は日本政府が上手く展開しているかどうかはわかりませんが、Society 5.0という言葉を作ることで、新たなプロジェクトが生まれ予算がついています。 その名前や言葉の下にみんなが集まり、議論できる場所を作れると良いと思います。
この時代を議論するための適切なフレームワークあるいは疑問を提示する概念や言葉が示せれば面白いと思っています。


-大澤氏:
江間さんとお話して思ったのは「こういう問題がある」ということを発見することが重要で、これから僕らは本当に重要な問題は何かを考えなくてはいけないということです。何かの答えを出すというのではなく「こういう問題がある」ということを、問題提起することです。
そしておっしゃるように、長い言葉で説明するのではなく、短くてインパクトを持った魅力ある言葉で提示できれば良いですね。


-江間氏:
そうですね。漢字でも横文字でもどちらでもいいのですが、ハッとさせられる魅力的な言葉を発信し、その言葉を核にして議論するために様々な人が集まるフォーラムを開き、いろいろな意見や提案が出てくるといいですね。

昔は「共生社会」という言葉はなかったわけですよね。もちろん昔からあった漠然とした「持続可能な社会」という考え方がSDGsの基になっているところもありますね。 その言葉の響きに引き付けられる、面白いと思われるような言葉が欲しいですね。
言葉のセンスのある方もいらっしゃると思いますし、当て字でも造語でも横文字でも、あるいは中国の故事などでも、日本語の“あわれ”を表している大和言葉でも、コンセプトを掴んだ言葉が見つかるといいですね。そういう再発見もできたら面白いですね。


-大澤氏:
なるほど、考えさせられます。おそらく「SDGs」・「持続可能」という言葉は人を引き付けるにはやや弱いと思うのです。持続可能というと崩壊を防ぐという感じが強くて、ポジティブに引き付けていませんね。
まだ十分に議論されていない問題を取り上げることで、長い目で見ていくとSDGs的な問題の解決に繋がっていく、というような夢のある見方も必要かもしれません。 今日はどうもありがとうございました。





【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像』(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


江間 有沙氏
東京大学未来ビジョン研究センター特任講師
東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

京都大学白眉センター特定助教、東京大学教養学部附属教養教育高度化機構科学技術インタープリター養成部門特任講師を経て、2018年4月より東京大学政策ビジョン研究センター特任講師。2017年1月より国立研究開発法人理化学研究所革新知能統合研究センター客員研究員。専門は科学技術社会論(STS)。人工知能学会倫理委員会委員。
人工知能と社会の関係について考えるAIR ( Acceptable Intelligence with Responsibility) の発足メンバーの一人として社会と技術の垣根を越えた議論を行っている。