CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

各専門家からみた現在の状況とこれからの持続可能な社会について、
CCI FUTURE IMPACT Forum座長の大澤真幸氏と
あらゆる分野の専門家からなるメンバーの対談をお届けしてまいります。

今回は、Part1Part2に引き続き、
長野 麻子氏と大澤 真幸氏のスペシャル対談Part3をお届けいたします。

【第5回】林野庁からみた現状と持続可能な社会とは
長野 麻子氏 × 大澤 真幸氏

Part3(全3回):後世のための貢献に本気で取り組む。環境立国、日本の可能性


-大澤氏:
先日たまたま知り合いの編集者からgoogle検索ワードのトレンドデータをいただきました。様々な学問について調べてみたのですが、一つだけ検索件数がすごく増えている学問がありました。それが「哲学」なのです。哲学の検索件数が圧倒的に伸びて、今も圧倒的に高い数になっている。多分、皆が今回の問題に哲学的な疑問を感じている。しかし今のところ、まだ哲学的答えを与えられていないと感じています。


-長野氏:
日本では専門家の人だけが哲学を学ぶ形ですが、フランスですと、高校生でも普通に学んでいて、中等教育修了の際に受けるバカロレアという試験にも出題されます。改めて生きる意味を考える。「これまでの生き方がこれで良かったのか、おかしかったのではないか」という、何となく肌で感じているものを考えることを迫られている気がします。しかし、答えが出せないとまた元に戻ってしまうのですかね。


-大澤氏:
もちろん答えがあるようなものではないかもしれません。しかし、それで開き直ってしまっては虚しいものだけが残ってしまうと思います。皆が疑問に思っている時だからこそ、この機運を活かして、「深く生き方を考えたい」と思っている事に対し、こうしたらいいのではないかという提案や手を打つことをやったほうがいいと思います。平時であれば何も反応はしないですよ。


-長野氏:
最近、自殺する人も増えてきて、特に女性が増えている。そういう意味では生き方、答えを探している人が多いのではないかなと思います。


-大澤氏:
今回、エッセンシャルワーカーの存在に改めて気づかされ、「自分の仕事はエッセンシャルではないのではないか」と考える人もいたと思います。地球全体が緊急事態になった時に、「何をしたらいいのか」という事(問い)に対し、「家の中で自粛していてください」と言われる。それが皆のためになるので自粛しているわけですが、「これでいいのか」という疑問があるのです。全世界が危機に直面しているこの状況にも関わらず、自分ができることはただ家の中に留まっていることだけなのかというジレンマがあり、非常にアンバランスで精神的に良くない状況が続いています。


-長野氏:
その時に皆、「哲学」と検索していたのでしょうか?


-大澤氏:
そうだと思います。そういう人は沢山いたと思います。私たちは「できるだけ外野に任せ、何もしないことにより貢献する」という矛盾に非常に悩まされたわけですが、この気持ち自体を大きな社会の転換に活用できるのではないかと思ったのです。


-長野氏:
先日、東京からの転出者が初めて増加したというデータも出ていましたが、若い方を中心に皆さんいろいろと考えて、行動に移すことが始まっているのではないかなと思っています。どこに行かれて、何をしているか、というところまで把握できておりませんので、検証が必要だとは思いますが、これを機に、一度しっかりと考えた上で行動に移すということが拡がっていけばいいなと思っています。やるべきことがあっても地方ではやる人がいないというのが共通の課題ですし、人口が少ない地方の方が一人あたりの存在価値や役割を強く感じられると思います。出張等で地方にいくのですが、そこで出会う女性や若者は輝いていて、使命感もありつつ人生も楽しんでいる。都会で疲弊している場合ではないと感じます。


-大澤氏:
先程、18歳の青少年アンケートのお話をしました。欧米では、環境問題がほぼ第1位になるのは何故かということですが、環境問題は全人類にとって一律の問題なのですね。だからこそ環境問題が一番上にくる。SDGsの「世界中の人々を救いましょう」という基本のアイディアが示す様々な問題があり、それらがSDGsの目標に挙げられています。例えば、貧困問題は、貧困な人と裕福な人がいて、救わなければならないのは貧困な人ということは明白です。日本人は自分の身の周りで感じることができる貧困や格差などのように「私たちの問題」という実感を持つことができる課題には目がいくものの、環境などの全地球レベルのことに対しては関心が低いということの表れのような気がします。 長野さんのように国の行政に関わる人々にとって、この問題は何とかしなければならない大きな課題だと思うのですが、いかがですか?


-長野氏:
SDGsは大きな課題ですし、林野庁としては、国際的に同じ方向を向ける共通の大きな目標ができたという認識をしています。しかし、どう解決していこうといった時に、例えば、国の政策としてCO2を減らすために規制や補助金等の対応はできるかもしれないものの、生活者個々人が排出しているものも、塵も積もれば山となる部分であり、そこへの対応に悩むところがあります。 個々人が、自分の問題だと気付き、自分事化が進んで関心を持ってくれるのであれば、一人一人の活動を良い方向に向けていくことができると思いますし、企業も一人一人の集まりですから、そこを構成する人々が変われば大きな力になっていくと思います。 国という中央集権の構造でどういったことが出来るか、また、草の根でどういったことが出来るか、うまく方向性を合わせながら対応していかなければならないと思っています。国だ、地方だとか、官だ、民だとか関係なく、もう日本全体で総力をあげてやらないといけない時期がきていますよね。


-大澤氏:
環境問題をはじめとするSDGsの問題に対し、後の世代のためにも、本気で貢献する気があると示すようなことをやっておく必要があると思います。


-長野氏:
そうですね。まさに、先程先生がお話されていたように、日本人の欧米とは異なる独特な自然観というのは、これからの持続可能な社会にとても向いていると思っています。縄文時代だったら住める場所ではなかったかもしれない場所を住めるようにしている我々のアイデンティティのようなものや実践を、科学的なエビデンスとともに、国際社会へ貢献できるような形で打ち出していく。それにより、日本は、環境問題においては、ずっと昔から実践を積んできた、「実績のあるリーダー」だと思われるようになっていければ良いなと思っています。 少なくとも、環境や自然との関係において、国民全体として欧米とは全く一線を画した独特性があると思っています。そういう所をうまく出していくことによって貢献できればいいなと思います。 以前、アラブの人々が日本を訪問された際、日本は緑豊かでうらやましいとおっしゃっていただいたことがありました。こちらとしては資源国で、お金持ちでうらやましいと思っていたのですが、お金に変えられない自然が残されている事がこれからの価値観の軸になっていくかもしれません。欧米がエコロジーやサーキュラーエコノミーと呼ぶよりも以前から日本人が実践してきた「自然とともに生きていく、人も自然の一部だ」という感覚をきちんと科学で説明し、こういう生き方をすると持続可能で平和だよということを打ち出せるようになるといいと思っています。自然からはまだまだ学ぶことがたくさんあります。


-大澤氏:
私も賛成です。すごく良いと思います。基本的心構えだけではなく、実際に科学的裏付けのある行動としてどういう風に出るかという両方の側面が必要です。 私が学生の時代に20世紀の偉大な文化人類学者のクロード・レヴィ=ストロースが来日した際、日本人の生活、建物の在り方を見ながら、自然と共生している事にすごく驚いていました。環境問題に対する効果的な結果となるよう、実際の行動様式や技術に転換できれば良いと思います。それを実現できれば、日本はそれこそ「環境立国」となります。 今のところ、先程申し上げた通り、日本は子供が母親に甘えているドメスティック・バイオレンス状態ですから、せめて環境に対するドメスティック・バイオレインスを無くし、母子関係を正常化する必要があります。正常化した母子関係を構築した上で、具体的なモデルを実行し、自然に対し親孝行できるような形を実現したいですね。 最後に、今後のフォーラムについて、何かご提案やご希望がありましたら伺いたいのですが、いかがでしょうか。


-長野氏:
今回のことを一過性に終わらせない提言といいますか、提案ができるとよいのではないかと思っています。メンバーもバラエティーに富んで、このフォーラムのように文系や理系、官民問わず、専門的な方々が横断的に話をする場はありそうでないところで、そういった意味ではここから結合して生まれるものが出せればいいな、新しい価値観をともに考えるベースとなるものを提案できるといいなと思っております。


-大澤氏:
長野さんのように現場に近いところで見ていらっしゃる方がメンバーにいるのが強みだと思っています。片方に寄ってしまうと、机上の空論になってしまいます。総力戦であたらねばならない問題に対して、考えていく場にしていければと思っています。 本日はどうもありがとうございました。


【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像』(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


長野 麻子氏
林野庁 木材利用課長
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

東京大学フランス語フランス文学科卒。農林水産省入省後、フランス留学、バイオマス・ニッポン総合戦略検討チーム、国際調整課、(株)電通出向、食品安全委員会事務局出向、食品産業環境対策室長、報道室長、大臣官房広報評価課長を経て、現職。
NPOものづくり生命文明機構常任幹事。