CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

各専門家からみた現在の状況とこれからの持続可能な社会について、
CCI FUTURE IMPACT Forum座長の大澤真幸氏と
あらゆる分野の専門家からなるメンバーの対談をお届けしてまいります。

今回は、Part1Part2に引き続き、
思考家白土 謙二氏と大澤 真幸氏のスペシャル対談Part3をお届けいたします。

【第4回】思考家からみた現状と持続可能な社会とは
白土 謙二氏 × 大澤 真幸氏

Part3(全3回):SDGs達成のための行動を起こす「起点」を作る。継続的な行動は「自分事化」から。


-大澤氏:
私自身が学者のような仕事を始めたのは80年代でしたが、70年代・80年代はもう少し実質的に何かがやれる感があった感じがします。ある時期から全くそういった感覚がなくなってきて、企業の人たちも含めて無力感というものを感じます


-白土氏:
経済学者の森嶋通夫先生が、日本が絶頂期だった80年代の半ばに『日本はなぜ没落するのか』という本をお書きになっていて、数十年後には今の若い連中が日本の中枢を担うのだから、若い者をみていればその後の日本がどうなるかわかるのだとおっしゃった。
このように 「Japan as No.1」といっている時代に日本が没落することを予見されていた。これと同じことで、90年代にバブルがはじけて、どうなったかというと、「失敗するな!危ないことはやめておけ!投資するのはいいがいつ回収できるのか?」と。銀行でも企業でも、借金を返すためのケチケチ運動が始まってしまい、チャレンジ精神が失われた時代が25年・30年と続いている。
そういう守りをやってきた人達が部長になり、役員になっている。冒険したり、失敗した人がほとんど存在していない。イノベーションとか口ではいっていますけど、実はその人たちにそういう経験がない。能力はあったかもしれませんが、経験がないわけです。手堅くミスなく生きるという人たちが管理職、指導者になりつつあり、そういった人たちはもっともイノベーションに向いていないのですよね。
イノベーションを起こしている人は、大学ベンチャーや大学をやめて起業するような人など、ベンチャースピリッツをもってやっている人くらいでしょうか。
ミスなく効率のみを求める、今、そういう経営者が非常に多くなっています。
お仕事でご一緒しているファーストリテイリングの柳井正さんのように、自分の責任で、自分で決定できる方は少なくなってきており、まったく様変わりしている状況です。


-大澤氏:
先日、昔みたテレビドラマで松本清張の『The商社』というドラマのDVDを見返しました。関西の安宅産業をモデルにしたドラマなのですが、学生時代にNHKで放映されて話題になったもので、和田勉が演出、松本清張が原作、山崎努が主演、夏目雅子が出ていてかなり力をいれたドラマでした。先日、『半沢直樹』が流行ったので、比較分析のために見返したのです。昔流行ったドラマと今のドラマ、なぜ成功しているのかを比較すると社会学的にわかることがあるのですね。

そのドラマの内容ですが、そこに出てくる安宅産業という会社は、10大商社の一番下に位置していたので、挽回するために石油に手を出そうとするわけです。ところが、折が悪く、第三次中東戦争とオイルショックがおきてしまい、結果的には倒産し、伊藤忠に吸収されてしまうというものです。
しかし、このドラマでは失敗した主人公を英雄的に描いている。主人公は非合法に近い冒険的な手を打っていくのですが、それも結果的にあだになり運も悪く倒産していくのですが、その冒険をした主人公に対して、明らかに作者側にポジティブな思いがあるわけです。読者や視聴者にもそういう気持ちは共有されていたでしょう。

1980年代、日本は成長期ですが、しかし失敗した人たちに対しても素晴らしいと称えるような感覚があったのですよね。日本の経済そのもの、世界経済にも影響を与えるようなことをやりながらも挫折したその人を称えるような感覚があった。
しかし、ある時期からそういうのが全くなくなってしまった。
SDGs問題を克服するためには、手堅くやっていたら目標達成できるかといえば、そんなことは絶対にないと思うのです。このままいけば、一つの目標さえ実現できないからこそ掲げられている目標なのですよね。これらを達成させるためには、思い切った手を打たなければ実現できない。
ところが、日本人にはイノベーティブな起業家的な要素が欠けているのではないかという悲観的な気持ちがあります。どうしてこのような状況になってしまったと思われますか?


-白土氏:
やはり、様々な管理があり、社長も指名委員会で指名され、外部役員による監視など、健全化しようという制度が整えば整う程、独裁的なといっては失礼ですが、大きな大胆な決断はしづらい環境にあるというのは、影響があるかと思います。一方、それができている方は、私は勝手に70年代型経営者と呼んでいるのですが、そういう方は創業者、創業家に多いのですよね。決断できる人は創業者に多いですが、任期が4年しかないサラリーマン社長には難しいですよね。
今、中期経営計画というのを会社や大学、NPOなど様々な団体が出していますが、大体4年~6年の計画なのですよね。それは社長の任期がそれしかないから。中期といえば、普通は10年、20年。長期といえば、50年、100年でしょと。4年って中期じゃないでしょ。時間軸が短く、視野が狭いわけです。

大きな決断ができる人たちというのは時代に関わる。例えば、80年代、ある大手酒類メーカーが不調だった時期があって、役員勉強会に伺って、勝手な事業提案をするわけですが、どうなるかというと「あなた、うちのことをわかっているみたいだね。じゃあ事業計画書いてもらおう」「いえいえ。私はCMを企画しているもので、MBAをもっているわけでもないですし、事業計画は書いたことはありません」「いやいや、あなたに書いてもらおう」とか、大手アパレルでも会長自らが聞いてくれて「ここに問題があるのです」などと説明すると、「わかりました。では、その戦略を採用するので、あなたを1年間副社長待遇にするから、事業を手伝ってください」と話を聞いただけで、失敗するかもしれないし、私のことを何者かもご存じないのに、任せてみようというリスクをとれる、即断で決断できるというすごさがありました。
しかし、そういう方とは最近だんだんお会いする機会がなくなってきた。みなさん賢い感じになっているけれども、自分だけで単独では決断できないわけです。周りの方と合議制でやらなければならないので、大胆な打ち出しや施策が生まれにくくなってきているなと感じます。


-大澤氏:
1つの大きな成功をするためには、10個くらい失敗をしなければならないということかと思うのですが、失敗をなくそうとすると1つの成功も生まれないという感じですよね。


-白土氏:
クライアントもだいぶ変わってきています。
当時、私は家電メーカーを担当していたのですが、伝説的なヒット商品を生み出した方から呼び出されて、話をした際に、「これから3年間は技術、リソースを発揮できない。でも、ライバル会社に圧勝する」とおっしゃるので「技術がないのに勝つというのは矛盾していると思うのですが」と答えたところ、「君の名刺にはなんと書いてある?」「クリエーティブ局プランナー白土謙二と書いてあります」「矛盾を突破できるのがクリエーティブというんだ。クリエーティブで突破できないならそんな名刺を持つな」と。オリエンしている人自体、無理があるかもしれないが絶対に解けるはずだという難題を平気で投げかけてくる。

答えは「圧倒的なデザイン力」なのですよね。技術がないのであれば、圧倒的なデザインでしばらく乗り切る。答えはあるのです。それを考えてみろという形で、オリエンに出してきて、答えを引き出すという凄い方がビジネスの中にいらっしゃって。そういう方はどんどんいなくなってきている気がします。

私は業界のコモディティ化と呼んでいるのですが、コモディティ化が進行し、由々しき問題になっているのではないかなと。ある意味、政治家も官僚もマスコミもみんなコモディティ化=素人化しているのだと思います。


-大澤氏:
白土さんのような数々の現場をご覧になっている方がおっしゃっているので、改めて深刻なことなのだなと痛感しました。今のような現状を踏まえ、本フォーラムですが、白土さんがおっしゃっているような問題を突破するような知恵を生み出していく場所にしたいということなのですよね。様々な領域の専門家に集まってもらっていますが、専門家といってもそれぞれですから、そこから一つの結論は出せない。しかし、それを擦り合わせていくことにより何かを導きだせるような知恵の集積になればいいなと思っています。
私がこういう仕事をするようになった80年代終わり、90年代初めまでは明らかにインターディシプリナリーな知の領域の中から創造的なものや問題を突破できるようなものが生まれてきそうな知的な場はあったのですが、21世紀の転換期になったそれぞれの専門領域はあれども、全体を総合しながら我々の世界観を磨き上げるということが起きなくなってしまった。本当の意味での知性を磨き上げるような場になればいいなと思ってフォーラムを運営していますが、これからのフォーラムについてご意見をお聞かせください。


-白土氏:
世の中に発信していくときに二つやり方があって、一つは広告です。広告はイメージでできるもの。新商品がなくとも企業イメージだけでも伝えることができる。
もう一つは広報。これはファクトがなければ取り上げてくれない。知のサロンから生み出していく際、アウトプットイメージを作り出す際、ファクトがつくれないのであれば、やはりメッセージを出すべきだと思うのです。これを出せる人がまったくいないし、発信主体もあいまいになっている。
だからこそ、逆に、人はメッセージというものをきちんと受け取ってくれる可能性があるのではないかと思っている。そういうメッセージをどのように出すか。
一方、アメリカ人で104歳まで生きたエドワード・バーネーズという、『プロパガンダ』という本を書いたPRの神様がいるのですが、その人がいっていたのは、PRというのはニュースリリースを書いてメディアに取り上げてもらうという仕事ではないのだと。PRの本質というのは成功する仕組みを作ることなのだ。書いたものがどう伝わり、その人たちがどう行動して、変化が生まれる、そのフローをイメージして、その起点となる伝えるべきことを伝え動かしていくものなのだと。成功する仕組みを持っておかないと、ただ伝えましたと、あとよろしくといってもその先で消えていってしまう。

自分たちがそれをやるプレイヤーではないとするのであれば、最初の起点がメッセージ。メッセージをつくって、それを実現するために、今、ベンチャーなどがんばっている人たちがいて、そういう人たちのだれが実現しそうなのか、そういうところとつながってみようとか。何らかの結果、ファクトに結び付けていくことが大事で、ファクトを作り出しているところを見つけ出して小さくてもいいから応援する、紹介するなどできたらいいと思います。


-大澤氏:
我々が実際にどういう行動をしているかというのが本当に考えていることということだと思います。考えていることを行動していなければ、真に考えたことにもならない。どうやって具現化された行動につながる思考を紡ぎだすかということですね。
今回のようなコロナの問題がでてくると、問題を具体的に乗り越えるためにどうするかということを考えていかなければならないので、ある意味では、よい機会です。形になる思考を作っていく会にしていきたいなと思っています。


-白土氏:
私はSDGsのワークショップを数多くやっていますが、進んだ企業は18番目のゴールを自分たちでつくるということをやり始めています。自分たちの企業にとって、17の項目は当然大事だけれども、それで尽きているのか。自分たちならではの目標をやってきたことを踏まえ自分たちの頭で考えてみようと。このように自発的に考えた目標であるならば行動に結びつける動機もはっきりしている。先生がおっしゃるような行動を促す視点やメッセージをつくる。行動を促す起点をどうつくるかというのがすごく求められると思います。


-大澤氏:
本日は貴重なお話、ありがとうございました。





【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像」(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


白土 謙二氏
思考家
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

思考家 ファーストリテイリング/サステナビリティ委員会社外委員 Think the earth 理事
1952年生まれ。1977年立教大学卒業、同年4月株式会社電通入社。以来約20年間、クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー、コピーライターを勤める。
その後、企業の経営・事業戦略からブランドコミュニケーション、商品や店舗の開発、イントラネット構築、そして企業カルチャーの変革からサステナビリティまで、広汎なビジネス領域の課題を、戦略と表現の両面から統合的に解決する独自のコンサルティングで活躍してきた、広告界のレジェンドの一人。
元・電通執行役員/特命顧問。