CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

各専門家からみた現在の状況とこれからの持続可能な社会について、
CCI FUTURE IMPACT Forum座長の大澤真幸氏と
あらゆる分野の専門家からなるメンバーの対談をお届けしてまいります。

今回は、前回に引き続き、
思考家白土 謙二氏と大澤 真幸氏のスペシャル対談Part2をお届けいたします。

【第4回】思考家からみた現状と持続可能な社会とは
白土 謙二氏 × 大澤 真幸氏

Part2(全3回):SDGsにおける日本の状況


-大澤氏:
今回のコロナは、元に戻るという形では克服できないですよね。我々は、こういう危機が人類にあるということ、似たようなリスクが今後も来る可能性があるということを知ってしまった以上、元に戻るということでは困難を克服できないと思う。
「いつになったら元に戻るのか」というフレーズをよく聞きますが、元に復帰するのではなく新しい選択肢でなければならない。これを克服するということは、元に戻ることではなく、別の道に行くことなのですが、日本人だけがとは思いませんが、別の道への想像力や積極性が圧倒的に欠けているという感じを持ちます。


-白土氏:
この度の件は、メディアの責任は非常に大きいと思います。霞が関も知的劣化が激しいですが、メディアの知的劣化はもっと激しい。最近は見ていて驚いてしまいます。


-大澤氏:
メディアの現況については複雑なのでしょうね。メディア自体も反知性主義的な部分があるかもしれません。
以前、白土さんが政治的なリーダーのコロナ対応について話をされていました。少しお伺いしたいのですが、こういう危機は、通常であればリーダーにとって有利な状況です、人気や支持率をあげるチャンスになりますが、今回は一部のリーダーは支持率を下げました。 それとの関係で不思議に思ったことがありまして、先日の安倍総理が辞任するという記者会見をした後、支持率が上がったのですよね。安倍総理のコロナ対策に失望して支持率が下がったのに、辞任で支持率があがる。日本人の政治リーダーに持っている期待はどうなっているのか?日本人のリーダーに対する民主的な支持の仕方がよくわからなくなってきているのですが、どのようにご覧になっていますか?


-白土氏:
ビジネスにおいては、よくあるのが、調子が悪くなったら社長を首にしてやめさせましょうというのがあります。社長を変えたからといって、すぐ翌月からすごくよくなるかといえば、そんなことにはならないわけです。やはり動かしているのは個人ではないわけです。大きなメッセージは出せるものの、考えた政策や戦略方針を出すためには一人でどんどんまとめて書く人はいません。政策をしっかりとつくっていくチームが必要で、そこに優秀な人を結集しなければできないはずなのです。
リーダーの役割は大きな方針を示し、皆さんに理解できる言葉で発信するということですが、例えばそのリーダーを完全に信用できないということですと、それはコロナだろうが他の政策だろうが、メッセージを発信したとしても伝えたいことが伝わらず、とても難しいのではないかなと思います。


-大澤氏:
メッセージの伝達も重要な課題ですね。SDGsに関して、この頃思うのですが、日本という国として、人類の将来に対して、どのように貢献していくかというビジョンやイメージが全くないように感じています。
私自身も若い頃は、国のことと自分のことは別だから、国がだめでも自分ががんばればいいと思ったものですが、いざ自分が歳を取ってみると、国自体にビジョンや理想がないと、その国で生きていく、その国で仕事をしていくという人たちの中にも大きな目標を持つことやきちんとした生き方をするというのが難しくなってしまうと思うのですよね。日本はSDGsに積極的に貢献しようという姿勢が見られない気がするのですが、どのようにお思いになりますでしょうか?


-白土氏:
SDGsの前段に規格を持ってしっかりやろうという取組みでISO26000がありました。当時、いつも欧米がデファクトをつくって日本は追従する形となってしまっているので、今回は基準策定から入り、共に推進しようということで経団連からメンバーが参加したという経緯がありました。
ところが、参加されていたメンバーの一人から、「日本の代表は環境や人類の取り組みを発信しようという内容を条文にいれようと言っているが、特に欧州の人々とかみ合わない。専門用語が違うのか、原文を送るのでチェックしてくれ」という連絡がきました。確認したところ、まったく言語的には問題なかった。

では、なぜ噛み合わないのか。日本は「伝えましょう、知らせましょう」といっていますが、欧米は既に知らせる段階はおわっていた。「どう行動するのか?」「数値目標は何なのか?」。数値目標を出して、どう行動するのかを出し、それを守ってやり遂げようというステータスになっている。行動させるためのコミュニケーションでなければ何の変化も起きない。そこが違うと思うのです。
日本は、横並びでやろうとか勉強しましょうとかいう話になり、自分事化できない。SDGsが大事だと思っている人は、経営者では80%程なのですが、中間管理層・社員では、それぞれ18%程度しかいないのです。このように、自分事化できず、社長がまた何か言いだしたという話になってしまうわけです。

私もSDGsのワークショップを行っているのですが、動機付けをしない限り続きません。SDGsは、地球全体のすべての活動に対し、企業および企業の構成員は責任を持てといわれていることになります。
例えば、洋服であれば、インドで栽培している綿花に過剰な農薬をつかっていないかとか、アパレルはベトナムで布を染色する時に川を汚染していないかとか。
しかし、全部責任を取れといわれても、企業はすべてを知ることは不可能なのですよね。全部を知り、全部に対応するというのは、企業でも個人でも政府でも実現できない。

まずは、自分たちが地球や社会に負荷をかけている部分に対し、もっといいやり方や違うやり方で改善していくなど、身近なところから関わっていかなければならない。自分事化し、動機付けし、一人ひとりが日々の仕事でやれるぞというところまでどう落とし込んでいくか。ここが、大切であると同時に一番難しいところです。


-大澤氏:
SDGsというのは目標だけでも17もあり、すべてのことが含まれている。かつ、細分化すればもっとすごい数になります。一つ一つをとっても、極めて大きな包括的なもので、すべてに配慮することが可能か、すべてが両立するのかというのもわからない多さになります。
いずれにしても、それぞれの企業なり、個人でもそうかもしれませんが、いくつかの目標の中で、「この目標は特に自分に関係ある」ということがあると思うのです。
SDGsが重要だと思うのであれば、それは行動が伴わなければならないですよね。企業活動であれば、もちろん企業の収益をあげることも重要ですが、SDGsに対して、その企業は何の貢献をしているのか。具体的な貢献があるように行動する。そういう行動することで、企業、企業のリーダーはSDGsを大事にしているということになると思います。
日本は、具体的な行動は自分で決める気はなく、決まったらやらせればいいというようになってしまっている。ということは、本気でないというように取られてしまうということだと思うのです。


-白土氏:
そうですよね。最近、テレビに出てくる方は皆さん、特に金融系の方などは90%くらいの方がSDGsバッジをつけて出てきたりして、ブームになっている。しかし、ブームというのは危険で、急速に盛り上がりますが、急速に去っていくというのがあります。本気で一人ひとりが取り組む動機付けや志がないとなかなか続かないと思うのです。
私もいろいろなところにコンサルに伺うのですが、大企業よりも中小企業こそが結果を出すのではないかと思っています。例えば、魚をとる網だけをつくっている企業であれば、自然保護と海洋汚染に特化して取り組めばいいわけです。それが本業ですから、何かしら貢献できないか、そこにフォーカスして考え、行動すればよいわけです。
大きな企業で、様々な事業を展開していると、地球全部に責任をとれということになり、当然無理が出てくるわけです。それぞれ持ち場、持ち場で小さなことでいいから、昨日より良くして改善に取り組んでいく。それだけでは大きな変化は起きないので、やはり未来の目標を数値で測りながらやっていくということも重要なのではないかと思います。
しかし、現実には、企業がどのくらい電力を使ったかを計算するのはとても難しいのです。何千という工場に発注しており、その工場が、それぞれ自社のためにどれだけ電力を利用したのかというのを完全に把握するのは不可能です。現状は、自分たちがどの程度の影響を与えているのかというファクトを確認するだけでも大変なことになっている状況だと思います。


-大澤氏:
難しいですよね。
この頃、仕事の意味を考えるのですよね。今の例をとってみると、SDGsを考えて働くということは、人類の未来のために少しでも貢献したいと思うことだと思うのですよね。人によるとは思うのですが、日本人はそういう感覚を普段持つことがあるのかなと気になるところがあるのです。

先日、人類学者のデヴィッド・グレーバーが亡くなりになりましたが、彼の『ブルシット・ジョブ』という本が翻訳され、話題になりました。これは、彼が2014年にネットにブルシット・ジョブ現象についてという短いエッセーを書いたところ、ものすごい反響があって、それで本にしましょうということで出版されたものです。

ブルシット・ジョブというのは、要は自分の仕事はこの世界にとってどうでもいいと思うということです。客観的にみると、ブルシット・ジョブというのは大企業の中間管理職がやっていたりするようなわりと「いい」とされている仕事で、結構高給取りであることが多いのです。決して、低賃金で劣悪な労働条件の仕事ではない。
むしろ逆です。それなのに、自分の仕事に意味がないと思っている人がたくさんいる。なぜその人たちが自分の仕事に意味がないと思ったのか。

グレーバーは米国人で、米国と英国で研究をしているため、欧米の労働者について考えているのですが、欧米の労働者は、会社で仕事し一定の給料をもらっていますが、人類にとっていい仕事をしているかということについてはそうは思わないと言っている。そういう意味で自分の仕事がブルシットだと言っているわけです。

それでは、日本人に同じアンケートを取ったらどういう結果になるだろうか?
厳密な調査ではありませんがイギリスやオランダの被雇用者で40%近くが自分の仕事はブルジットだと回答したことに対し、とてつもなく高い数字だと思うと同時に、ある意味希望だと思ったのです。
なぜなら、彼らは、人類に貢献したい。でも人類に貢献できていないところがむなしいと言っているからです。
しかし、同じことを日本人に聞いた場合、自分の仕事をブルシット・ジョブだと答える割合はもっと低くなるのではないかと思います。むしろ、自分の仕事がブルシット・ジョブだと、悲観している方がブルシットじゃない仕事がしたいという意欲を持っているのだから少しはましなのではないかと。
日本人が世界や、人類に対して何か貢献しようと思っているかという点についてはいかがお考えでしょうか。



-白土氏:
そうですね。会社が村化していて、そこと自分のつながりだけになってしまっていて、世界とのつながり、環境とのつながりというように視野を広くとるということができなくなってきている気がします。ニュースでも、国内のニュースばかりが流れていて、見え方がずいぶん狭くなってきているのではないかと思います。

また、企業の中もコンプライアンスなどが厳しくなっており、数値、時間など管理をすることによって無駄なく経営されているということを説明しないといけなかったり、3か月ごとに収支を出す必要性があったりと、生産や販売の現場から離れた管理の仕事がずいぶん増えてしまった。人と接触する、人間的な喜怒哀楽と切り離されている仕事が昔と比べて非常に増えてきたと思います。

私が、ビジネスをやってきた中で、80年代前半まで、プレゼンの相手はすべて社長でした。広告は販売にも影響する重要テーマであったため、私が当時新入社員でTシャツを着ていたとしても、相手は社長で、フラットな関係で議論し、儀式ではなく本当に物事を決定する場となっていた。フラット・オープン・ネットワークなど、今求められていることが、実は60、70年代にできていたわけですよね。
しかし、現在は、管理部門が肥大化し、無駄なお金をどんどん削っていくという業務が中心で、役に立っているけれどもあまり喜びがない。たしかに利益はでるかもしれないけれども、楽しいことや喜びを生み出しているわけではないということが起きている気がします。


-大澤氏:
どうしてこうなってしまっているのかなと思うところがあります。


次回 Part3は、
「SDGs達成のための行動を起こす「起点」を作る。行動を継続するには「自分事化」から」
についてお届けします。


【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像」(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


白土 謙二氏
思考家
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

思考家 ファーストリテイリング/サステナビリティ委員会社外委員 Think the earth 理事
1952年生まれ。1977年立教大学卒業、同年4月株式会社電通入社。以来約20年間、クリエイティブ・ディレクター、CMプランナー、コピーライターを勤める。
その後、企業の経営・事業戦略からブランドコミュニケーション、商品や店舗の開発、イントラネット構築、そして企業カルチャーの変革からサステナビリティまで、広汎なビジネス領域の課題を、戦略と表現の両面から統合的に解決する独自のコンサルティングで活躍してきた、広告界のレジェンドの一人。
元・電通執行役員/特命顧問。