CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs 第2回目は、SDGs達成に向けて経済と課題の解決が二項対立的に考えられることが多く見受けられる中、それらを解決するためのグローバルな連携や共有する仕組みについて、財政学、環境経済学者の諸富 徹氏と大澤 真幸氏によるスペシャル対談をお届けいたします。

【第2回】財政学、環境経済学からみた現状と持続可能な社会とは
財政学・環境経済学者 諸富 徹氏 × 大澤 真幸氏
Part1(全3回):国境を越えた課題が噴出。グローバルな連帯への課題と仕組みとは


-大澤氏:
新型コロナウイルスの感染拡大によって、半年前には全く予想もしていなかった世界になり、今後色々な形で変化していくであろう、あるいは変化していかなければならないだろうということについて、どのようにお考えになっているのかをいくつかのテーマに沿って伺っていければと思います。
本日はよろしくお願いいたします。
諸富さんは、従来の経済学よりもはるかに広い社会全般を見ながら経済学をやっていらっしゃいますが、ご専門の立場からWithコロナ、アフターコロナをどのようにお考えになっていますでしょうか?


-諸富氏:
私の専門は、環境経済学と財政学の2つがあり、今回の話は、どちらかといえば財政学の視点からです。その財政学の観点から見た時に、国際連帯税という財政学の税金の世界でも特殊な税金があります。このコロナ禍の状況で、当然といえば当然なのですが、どの国も自国の国民のためにワクチンを確保することに奔走していますよね。

報道にも徐々に出始めていますが、先進国がワクチンを確保してしまい、最も打撃を受けるであろう、それでいて最も自国生産が難しいと思われる途上国、あるいは新興国には行き渡らないのではないだろうかという話が出てきています。この世の中の今日的状況を象徴的に現す問題になっていく可能性があるかなと思っています。片や、先進国は自国中心に走り、他方でグローバルな格差が目に見える形で顕在化するタイミングが来るのではないかと。今は、どこが薬を開発するか、いつ完成するのかの話がどうしても多いですが、いずれできた暁には次の問題として分配の話があると思います。

少し違う話として、WHO(World Health Organization/世界保健機関)において、批判は色々されていますが、WHO世界保健総会が今年の5月中旬に実施され、加盟194ヵ国が集まって議論された中で、ワクチン問題についてきちんと決議された点は評価すべきだと思います。
決議された内容は、一言で言いますと、経済の言葉で「国際公共財」に関わるものでした。国際公共財は、皆に便益が行き渡るものでなければならない。
また、財源は税金で持って賄い、個別に料金徴収するのではなく、公的機関が責任を持って供給すると言う考え方をとるべきだというものです。つまり決議は、ワクチンを国際公共財と捉え、とくに脆弱な途上国にそれが無償、あるいは安価で行き渡るべきだという考え方を表明したのです。
後日談として、この決議を巡って裏で様々な暗闘があったようです。「強制実施権」というものを巡ってアメリカとそれ以外の国でかなりせめぎ合いがあったということです。強制実施権、compulsory licensing(コンパルソリーライセンシング)というらしいのですが、緊急事態、つまりパンデミックにより国民の生命が危うくなる場合、国民利益を優先させて良いという権利があり、普通は製薬会社が持っている特許権、知的財産権の保護を当該国において緩和させる権利を各国が持っていることが、WTO(World Trade Organization/世界貿易機関)のドーハラウンドできちんと確認されているのです。
場合によっては、高額なライセンス料を払わずして、国民にワクチンや薬剤をジェネリック製品として供給することが可能で、緊急事態の際にはそれを実施しても良いということが決議案の中に言及されています。他方、アメリカはそれをいかに決議文に表記させないかということで精力的に動いたらしいですが、各国に反対され条文を消すことができませんでした。アメリカの主張は、製薬会社は儲かるから開発するのであって、特許権が認められなければ、ワクチンや薬剤の開発そのものが進まないではないかという主張でした。代わりにアメリカは、「経済的インセンティブが重要だ」という文言を入れさせることで、強制実施権と相打ちにしようと試みたものの、それも欧州とアフリカ諸国に反対されて表記できなかったという一幕もあったということでした。

ワクチンに関して進んでいる方向としては、自発的に連合体が形成されていて、例えば、ビル&メリンダ・ゲイツ財団などありますよね。こちらは、国際衛生のことに取り組んでおり、各国に呼び掛けを行い金銭拠出してもらうことにより、先進国からワクチンを買って途上国に安く提供することができないかという民間ベースの自発的な取り組みを行っているようです。

また、国際連帯税というのがありまして、フランスが一国レベルで導入しているものでエイズ流行時が出発点だったのですが、途上国支援のための財源を国際連帯税という名前の税金で徴収しているということです。なぜそんなところに課税しているのだという問題はありつつ、航空券購入の際に少額の課税を行い、それを財源にエイズで苦しむ途上国の人たちに対し、ワクチンを一旦共同購入して安く買った上で、安くもしくは無償で提供しています。
今回も、このようなものが出てくるタイミングなのではないかと個人的には思っています。

つまり、連帯ということ、大澤さんが、以前「連帯」ということを仰っていたのを伺った際にぱっと思い浮かんだのがこの税金のことです。まさに国際公共財として、国際衛生を供給するための財源として、連帯税というものがある。フランスのものは一国でやっているのですが、もう少しグローバルな枠組みで考えていくというのがあっても良いのではないかと思っています。


-大澤氏:
なるほど。私はあえて「連帯」ということを打ち出しています。国際連帯、グローバルな連帯などということは簡単にできるとは思っていません。むしろ今起きていることは、どちらかといえば葛藤が前面に出て、これまでの葛藤はより先鋭になっている方がメインになっている。しかし、あえて希望的観測的なことを言っているところがあるのです。
諸富さんのご専門の関連で伺いますと、環境の問題と財政の問題をセットで考えた時に、環境という問題は典型的にグローバルに解決するしかない課題ですね。特にアメリカがパリ協定から離脱するということを決めて以来つくづく思うのですが、それぞれの国が国益を求めるということと、環境問題を解決することの間にはトレードオフの関係があって、むしろ国益を追求することが環境問題にとってマイナスになる場合がある。国内政治から見れば、国益を追求するのは当たり前で、国益を追求するものこそ民主的に支持されるということですが、グローバルに考えればマイナスになることが起きるわけです。

いかにして国民国家レベルで、政治の主権というのが分立している状態を乗り越えていくのか、ということが非常に長い目で見た場合の人類的課題だと思うのです。
例えば財政の問題の場合、E Uが共通の債権を出すという話がありましたが、最終的にはあのような形で国民国家を超えた財政というものが出てこなければならない。EUの場合には通貨はある程度統一したものの、財政的にはほとんど統一されなかったというのが弱点だったわけです。それが今、EUを越えてさらに世界へ広がっていくのかという問題があります。

環境問題などの今まではまだ掛け声だけに留まっていたものが、コロナという切迫した問題に直面したことによって、今後10年くらいのスパンでみた時に、国益を第一に考えるのではなく、類としての人間にとって、あるいはグローバルの生態系にとって何が良いのかという観点での意思決定を優先させる動きが出てくるきっかけになればいいな、というのが私の希望です。
なかなかネガティブな部分が多いとは思いますが、これからの可能性や、こうすればいいのではないかなど、お考えをお聞かせいただけますでしょうか。


-諸富氏:
私はそういう意味では、悲観と楽観とが合い混じっています。悲観というのは、人類というのはなかなかすぐに正しい決定をできないですね。環境問題一つとっても、かなり被害が目に見える形にならないと動かないのではないかという意味では悲観的なのですよ。トランプ政権の下、アメリカで起きていることというのは、まず EPA(アメリカ環境保護庁)の予算を削ろうとか、地球気候変動研究を行っている研究者の予算を干上がらせようとか、そのようなことが現実に行われています。コロナでも同じですよね。気候変動に関しても、科学的な知見軽視というのが出てきていて、あれは嘘だとか、そんなことは起きていないだとか、起きていることを認めたとしても、太陽黒点が影響しているのであって人為的要因ではないとか、色々な議論がありまして、科学者はそれらをモグラ叩きのように一つ一つ潰していかないと、状況はなかなか前進しない。それに加え、国境を越えた問題なので、各国利害の相違で国際合意しにくい状況にあります。これまでの動きを見ていると、本当にすっと前には進まない感じがします。

しかし、予想より早く地球環境問題でも事態が深刻化していて、地球温暖化の影響と思われる現象が世界各地で報告されています。例えば日本では、浜松で気温が摂氏40度を超えたり、巨大台風に襲われたり、集中豪雨があったり、他国でも山火事や乾燥が激しくなったり、ロシアでは永久凍土が溶け出すなどということも起きています。このように気候変動の影響が、かなり早く目の前に現れてくると、そもそも経済成長を目指すとかなんとかいっていても、経済活動する基盤そのものが失われてしまいます。この点は、分かっている人には分かってきているという感じでしょうか。

ダボス会議やグローバルフォーラムでも、そこに参加している人たちは、かなり真剣になり始めているというのは、以前とは変わってきた点ですね。

コロナの場合は、そういうことでいうと地球温暖化問題に対する認識そのものを深めるということが直接つながっているわけではないですが、改めて問題がグローバルにつながっているということを認識させられるというのと、やはり科学軽視しているとひどい目にあうというのがわかってきたのだと思います。
それから、環境と経済の対立と同じで、パンデミックを抑えるか、経済を持たせるかという二項対立になりがちですよね。
どのようにして経済を持たせながら問題を解決したらいいのかという難問が、環境問題への取り組みと本当にパラレルだなと思うのです。
短期的にはパンデミックの結果、温暖化に関する議論は全部ストップしてしまいまして、COP(国連気候変動枠組み条約締約国会議)も来年に延期になってしまいました。パンデミック前に盛り上がっていた機運がどこかへいってしまった状況は短期的にマイナスですが、ただ同時にグリーンリカバリーという議論も起きています。
どうせ復興のためにこれから色々な投資をやっていくことになるのであれば、コロナ前に戻すのではなく、コロナの先にいくような形で投資をやっていこうという議論が起き始めている点は楽観的です。今までやれなかったことをコロナの影響によってやらなければならなくなった。その時に目指すべき経済社会の姿というのは、コロナ前のものではなく、環境問題を解決する方向なのではないかという議論がでてきたのは良い点かなと思います。


-大澤氏:
なるほど。それでは少し具体的なイシューに即してお聞きします。
先程おっしゃっていた製薬のコンパルソリーライセンシングの件ですが、今回の精神に基づいて、企業の利潤よりも途上国にワクチンや治療薬が分配されることを優先する形になりそうなのでしょうか?それともコンバルソリーライセンシングの精神は蔑ろにされそうな感じなのでしょうか?


-諸富氏:
それ自体は各国の判断に任されるそうなのですね。各国政府が自国の状況から判断してコンパルソリーライセンシングを実行しますという宣言をするらしいのですが、国内で薬剤を流通させる際にライセンス料を払わず、あるいは払ったとしても安い値段を払って廉価に供給するということがWTO上は、問題なしということになっている。しかし、その場合でも薬剤を調達しなければならないわけです。調達する時に、結局、製薬会社の協力を得なければならないわけですね。コンパルソリーライセンシングを宣言した国に対し、薬を供給するのを出し渋るという動きが出てしまった場合、途上国にワクチンが行き渡らなくなり、同じ問題が起こります。そのため、宣言だけして勝手にやるということはできません。そこには何かしらの交渉があるので、なかなか楽観できないかなと思っています。
ただ、最近読んだ記事ですと、SARSが流行した際に、先進国がワクチンを先に大量購入して、全国民に配れるようストックしたらしいのですが、そこまで必要な事態にならず、SAAS終息後に確保した薬が完全に余ってしまったということが起きた。他方、途上国はたいへんな状況にあったにもかかわらず、先進国が過大に確保してしまったためにワクチンを入手できていませんでした。結果、余剰となったワクチンを先進国が捨てるわけにもいかず、途上国にやむなく無償で寄付するという形になったという経験があったとのことでした。ワクチンを無理やり集めたところで実際どれだけ必要か読めない。1億人分集めたというのですが、本当に使うのかという問題があるのですよね。
先程ご紹介した、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめとしたフォーラムの中で議論していく中で、彼らが民間ベースで製薬会社と交渉しはじめているという動きもあります。
製薬会社は、儲けだけを考えて出し渋っていると非難されることを恐れているという話が聞こえてきます。SDGsとも関連してくるのですが、途上国の人々の生命や環境といったものに対し、先進国の儲かっている企業として何の貢献もしないのかと非難される可能性があるという問題があるわけです。ですので、強制的なコンパルソリーライセンシングではないけれども、自発的協力として廉価に提供することを申し出ているというようなことが書いてありました。

次回 Part2は、「変化しつつある国家を超えた枠組みとSDGsの実現性」についてお届けします。

【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像」(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


諸富 徹氏
京都大学大学院経済学研究科地球環境学堂教授
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

同志社大学経済学部卒業。京都大学大学院経済学研究科博士課程修了。横浜国立大学経済学部助教授、京都大学大学院経済学研究科助教授、同公共政策大学院助教授、同大学院経済学研究科准教授を経て、2010年3月から現職。この間に、内閣府経済社会総合研究所客員主任研究官、ミシガン大学客員研究員、放送大学客員教授を歴任。2015年4月より、ミシガン大学グロティウス客員研究員、および安倍フェローを務めた。主著に、『環境税の理論と実際』(有斐閣、2000年:NIRA大来政策研究賞、日本地方財政学会佐藤賞、国際公共経済学会賞を受賞)、がある。他に、『環境〈思考のフロンティア〉』岩波書店(2003年)、『経済学〈ヒューマニティーズ〉』岩波書店(2009年)、『地域再生の新戦略』 (中公叢書、2010年:日本公共政策学会賞著作賞を受賞)、「『低炭素経済への道』岩波新書(共著、2010年)、『脱炭素社会とポリシーミックス』日本評論社(共編著、2010年)、『私たちはなぜ税金をおさめるのか‐租税の経済思想史』 新潮選書(2013年:租税資料館賞を受賞)、『電力システム改革と再生可能エネルギー』日本評論社(編著、2015年)、『再生可能エネルギーと地域再生』日本評論社(編著、2015年)、『人口減少時代の都市』中公新書(2018年2月)、『入門 地域付加価値創造分析』日本評論社(編著、2019年)、『入門 再生可能エネルギーと電力システム』日本評論社(編著、2019年)、『資本主義の新しい形』岩波書店(2020年)、『グローバル・タックスー国境を超える課税権力』岩波新書(2020年)など。