CCI FUTURE IMPACT Forum for SDGs

各専門家からみた現在の状況とこれからの持続可能な社会について、
CCI FUTURE IMPACT Forum座長の大澤真幸氏と
あらゆる分野の専門家からなるメンバーの対談をお届けしてまいります。
今回は前回、前々回に引き続き、
国際ジャーナリストの堤 未果氏と大澤 真幸氏のスペシャル対談Part3をお届けいたします。


【第1回】ジャーナリストからみた現状と持続可能な社会とは
国際ジャーナリスト 堤 未果氏 × 大澤 真幸氏
Part3(全3回): 持続可能な社会の実現へ 時を超えた普遍的な場所への問い




-大澤氏:
哲学ですが、この間、ある出版社の編集者が面白いデータを見せてくれました。google検索トレンドなのですが、学問のジャンルでどの言葉が検索されているかを見ると、長い間、どの学問も同じくらいの検索数だったのですが、ある時期から哲学の検索件数が圧倒的に増加しているのです。ある時期というのは2011年の3・11の時からです。その時から急に「哲学」という語の検索件数だけが増加し、現在も高止まっている。ある意味、みんなに「哲学」に対する渇望があるのですね。一つの世界観を欲している感じがするのです。3・11やコロナなど、とんでもなく大きなことが起きてしまった時、自分の世界を見るための座標を求めて、それを哲学に期待していると思うのです。哲学が応答するだけの結果を出しているかはわかりませんが、需要があることに驚いたのです。
堤さんのお話の中にもあると思うのですが、私はある種アメリカは特別な国だと思うのです。彼ら自身もそう思っていると思います。One of themの国ではなく、選ばれた人々の国だと。自分たちは特別に選ばれていて、人類的使命を持っていると思っている。だから、アメリカ人は人類のために大統領を選んでいる、と思っているようなところがあると思うのです。他国と比べると国際社会や、地球のために行動しているというスタンスであったのです。そういったことでマイナスなことが起きる部分もありますが、アメリカがそうやって振る舞ってくれるから何とかやってこられたと思うんです。
しかし、今はアメリカファーストと言う。日本の総理がジャパンファーストと言っても誰もびっくりしません。当たり前だと思う。しかし、アメリカファーストでなぜびっくりしたかというと、アメリカ人はアメリカよりも大きなもののためにやっているように振る舞ってきたからです。それをトランプ大統領が、これからは、人類のためというような偽善はやめて、自分たちのためにやっていくのだというセルフィッシュネスを全面に出したことに対するインパクトがあったわけです。
しかし、現在コロナを迎え、アメリカファーストであるということではいられない。SDGsを考えていくのに、世界中の人が取り残されないようにするためには、17のゴールを達成しなければならないという前提です。アメリカは、今までは鼻につくくらい人類のためにやってきたのに、一番大事な状況の時に自国だけに注目してしまう。これはなぜ起きているのでしょうか。


-堤氏:
一言で言うと「揺り戻し」ですね。確かに第二次大戦後のアメリカは世界のヒーロー的存在を目指していました。その後泥沼化したベトナム戦争の失敗から一時期は他国への「介入」へ慎重になったものの、9・11後に始まった対テロ戦争では、再び「テロ撲滅」を掲げ、米軍が世界共通の悪と闘うという正義の構図を国内外に振りまきました。私が取材したイラク帰還兵や本国の家族の中には、「イラクの自由と民主主義のためにアメリカが戦う」とはっきり仰っていた方も沢山いました。
でも国外に向けられた美辞麗句と国内事情のギャップが拡がっていくにつれ変化が出てきたのです。国民からすれば、アメリカはグローバリゼーションを神格化しすぎて、国民を置いてきぼりにしたまま自由貿易の方だけ急速に進めてしまったのです。その結果、大澤先生がおっしゃられたSDGsの方向ではなく、効率よく一部の人だけが利益を得るシステムが固定化された、グローバル化の負の部分を体現した国家になってしまった。
国民はそのことを日常生活の中、肌で感じていました。マスコミが描いたイラク戦争の大義名分(大量破壊兵器)が実は存在していなかったことへの不信感や、世界人類の発展のためにというSDGsの精神のようなものが一部の財界に悪用され、経済的グローバリゼーションだけが進んでしまったことへの失望が膨らんでいったのです。政府は綺麗事を並べ続け、メディアはエリートの上から目線で「ポリティカルコレクトネス」という正義の鉈を振るう。 でも肝心の米国民の生活はどんどん落ちこみ、格差は固定化し、産業が空洞化し、医療・教育が機能しなくなり安心安全な食べ物はどこにもない。ふと気づくと「メイドインアメリカ」製品も、アメリカンドリームも、手の中にあったはずの誇るべきものが何もなくなってしまっていた。確かにアメリカ人の中には、「正義(ジャスティス)」というものに対する絶対的信頼がある。それでも自分の足元が崩れて明日が見えない状況で、明日の不安を抱えながら人類全体の未来を考えることは、なかなかできません。その揺り戻し感情をうまくすくい上げたのが、トランプの「アメリカファースト」だったのです。
私は、グローバリゼーションには2つの選択肢があると思っています。
一つは経済、企業利益だけに焦点を当て、一部の人がその恩恵も主権も独占する今のアメリカのようなパターン。もう一つはSDGsの考え方を軸に、自分たちの足元はしっかり固めつつ、食も病気も環境も経済も、情報も個人の自由もエネルギーも、全てが世界のコモンプロブレム、コモンイシューとして捉えて持続可能な発展の道を共に模索してゆくやり方ですね。最初は皆、当然後者に違いないと思っていましたが。覚えていますか?インターネットが出てきたとき、私たちの多くが、「ああこれで世界の隅々にまで市井の人の声が届くようになる、情報が民主化される」と、大きな期待を持ったことを。
けれど今、パンデミックや大統領選や、商品化したジャーナリズムや情緒的に分断された社会を通して私たちが見せられているのは、結局グローバリゼーションもインターネットも、それ自体が答えをもたらすのではなく、問われるのはそれを使う私たちの思想の方である、ということなのですね。


-大澤氏:
グローバリゼーションには二つの道があるとおっしゃいましたが、きっと最初は二つの道が矛盾しない一つの道だと思っていた、と思うのです。
一つは全体的にグローバル化によって経済的に豊かになるということ。もう一つは、SDGsのような様々なイシューが解決していき、みんなが豊かになり、政治的には民主化していくこと。SDGs的な目的と経済的なグローバル化には矛盾はなく、どちらもグローバル化したほうが解決すると考えていたと思うのです。しかし、気がつくと二つの間の乖離が大きくなっていた。
私たちは短期的にものを考えるようになり、政治に経済のマーケティング手法が使われ、まるで普段の経済を運営し、消費することと同様な形で、政治的判断を行うようになってしまった。だから、二つの道のうちの経済のほうが様々なことを圧倒し、政治的判断に対しても経済のように判断するようになってしまった。時間的なスパンも、マーケットで商品がどのくらいのペースで売れるのか、イノベーションがどのくらいのペースで進むか、消費者の思考がどのペースで変わるか、というのと同じように政治的な判断をしていく。そうするとSDGsのような取り組みはますます後退するのですよね。今日お話を伺ってそんな構造がわかってきました。

最後にフォーラムについて、今後どういうことをすればよいのかなど、ご意見があればお聞かせください。


-堤氏:
このフォーラムは哲学の分野やアカデミズムで様々な分野、政府機関、芸術家、経済界の人がいらして、毎回各界の第一人者の方から一級の講義を拝聴し、さまざまな価値観の方と同じ空間の中で議論できる、とても貴重な場ですよね。毎回多くの刺激と学びを頂いていることに、とても感謝しています。今日の大澤先生とのお話にもでてきましたが、今、テクノロジーの進化が早すぎて、我々の思考のスピードをはるかに超えるところで皆よくわからないまま引きずられています。個人的な自由や衝動がかなえられる技術的なメリットというのは、かつてのアメリカがそうであったように、自分以外の大きなもの、公共や、次世代、他社の幸福のために使われることで初めて価値を持つことを、私たちは立ち止まって再び思い出すための時期に来ているのでしょう。でもやはり、パンデミックのような非常事態が起きれば、そのたびに、立ち止まって考えることを忘れてしまう。
だからこそこのフォーラムでやっているような、短期的・情緒的なものとは対極にある人類的視点を持ったディスカッションを重ねることが、科学技術万能論が主流になってきている今の日本にとって貴重なカウンターになると思います。何故なら先ほど大澤先生がおっしゃった、3・11の後「哲学」の検索数が急上昇したという話にもあったように、新型コロナによって、今普遍的なテーマを深く掘り下げる「知性」への渇望が、世界中で起きているのを感じるからです。
今年の夏、リモートで実施された「World Localization Day」という国際イベントに登壇したのですが、どのセッションでも自然と「人類として私たちは何を残し、何を手放すべきか」というような、国境を超えたコモンイシューの話になってゆくのが印象的でした。
いつもはそれぞれが自分の国の視点から話すのですが、誰もが次の時代へシフトするための、新しい指針を求めていました。
今回はスペインで開催するはずがリモートになった事で世界中からの参加人数が膨れ上がり、参加者とのリアルタイムのやりとりも、いつもよりずっとスケールの大きなものになったのです。
このフォーラムも扱うテーマが大きいですから、是非日本だけでなく各国の識者と繋ぐ試みなどもあれば素晴らしいですね。
パンデミックという共通の体験を通して、世界が同時に向き合わされている今だからこそ、きっと熱く深い議論になると思います。


-大澤氏:
本日は、どうもありがとうございました。






【対談者 プロフィール】


大澤 真幸氏
社会学者
CCI FUTURE IMPACT Forum座長

千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任。
1990年代より、理論社会学の立場から現代社会の変容を総合的に分析し、論じてきた。著書に『ナショナリズムの由来』(講談社、毎日出版文化賞)、『不可能性の時代』(岩波新書)、『量子の社会哲学』(講談社)、『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎との共著、中央公論新書大賞)、『自由という牢獄』(岩波書店、河合隼雄学芸賞)、『日本史のなぞ』(朝日新書)など著書多数。個人思想誌『大澤真幸THINKING「O」』(左右社)主宰。現在、『群像」(講談社)誌上では、世界史の論理構造を解明する評論「〈世界史〉の哲学」を、『本』(講談社)誌上では、動物社会との比較の中で「人間」の本質を考察する「社会性の起原」を、それぞれ連載中。


堤 未果氏
国際ジャーナリスト
CCI FUTURE IMPACT Forumメンバー

ニューヨーク州立大学国際関係論学科卒業。ニューヨーク市立大学大学院国際関係論学科修士号。
国連、アムネスティインターナショナルNY支局員、米国野村証券を経て現職。米国の政治、経済、医療、教育、食、農政、エネルギー問題などを取材し、執筆、講演、各種メディアで発信。多くの著書は海外でも翻訳されている。『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(新潮文庫)で日本ジャーナリスト会議黒田清新人賞。 『ルポ・貧困大国アメリカ』 (3部作:岩波新書)で中央公論新書大賞, 日本エッセイストクラブ賞。同書は「岩波書店百周年-読者が選ぶこの一冊」トップ10入り。 2013年「日本の教育を考える10人委員会」委員。『沈みゆく大国アメリカ』 (2部作:集英社新書) 『政府は必ず嘘をつく (2部作:角川新書) 『社会の真実の見つけ方』(岩波ジュニア新書) 『日本が売られる』(幻冬舎新書)『支配の構造』(SBC新書)他多数。